山を歩く人は標高を気にします。けれど、平野で暮らす人にとって、標高はふだん意識しない数字かもしれません。ためしに、岡山を北の県境から南の海まで、まっすぐ一本の線で切ってみましょう。すると、県の姿が「階段状の断面」として見えてきます。
The topいちばん高い所 ― 中国山地の千メートル級
岡山県の最高峰は、美作市と兵庫県の境にそびえる後山(うしろやま/一三四四メートル)です。修験の山として知られ、その名は今も山岳信仰の気配を残します。ほかにも県北の稜線には、那岐山(なぎさん/一二五五メートル)、泉山(いずみがせん/一二〇九メートル)、蒜山三座の主峰上蒜山(かみひるぜん/一二〇二メートル)など、千メートルを超える山が連なります。
この高い稜線は、多くの場所で県境そのものになっています。山のてっぺんは水の分かれ目(分水嶺)でもあり、「大地が引いた線」の上を、そのまま「人が引いた線」が走っているのです。

The plateauまん中の高原 ― 動かない大地、吉備高原
県のまん中には、標高およそ三〜七百メートルのなだらかな高原が広がります。吉備高原です。山というより「持ち上がった平ら(隆起準平原)」で、地下は硬い岩盤が続き、長いあいだ地殻変動の少ない安定した大地でした。だから、ここに吉備高原都市が置かれた背景にも、この「動かない大地」があります。
高原の暮らしは、標高差が生む寒暖差とともにあります。棚田が段々に刻まれ、桃やぶどう(ピオーネ)が実り、いちだん高い蒜山(八百メートル前後)ではジャージー牛の酪農と、寒暖差で甘くなる蒜山大根が名物になりました。標高が、そのまま特産品を決めているのです。
The plain南のひくい所 ― 平野と、海抜0m地帯
南へ下ると、標高はいっきに下がります。岡山市の中心部は数メートル〜十数メートル。そして児島湖のまわりの干拓地には、海面とほぼ同じか、それより低い「ゼロメートル地帯」も広がります。ここはもともと吉備の穴海と呼ばれた浅い海で、四百年をかけて少しずつ陸にされた土地です。
海より低い土地では、雨水は自然には海へ流れません。だから排水機場がポンプで水をくみ出し続けています。低い土地の暮らしは、いつも「水をどう治めるか」とともにあります。二〇一八年の西日本豪雨で真備地区が受けた被害も、土地の低さと無縁ではありません。標高を知ることは、災害への備えを知ることでもあります。
One ruler一本の物差しで、岡山を縦に読む
| 標高帯 | おもな場所 | 暮らし・風景 |
|---|---|---|
| 1000m超 | 後山・那岐山・蒜山三座(県北) | 山岳信仰・登山、県境の稜線=分水嶺 |
| 300〜700m | 吉備高原(県中央) | 棚田・桃・ぶどう、高原都市、動かない大地 |
| 700〜900m | 蒜山高原 | ジャージー牛の酪農、蒜山大根、寒暖差 |
| 数m〜十数m | 岡山平野(県南) | 水田と都市、三大河川がつくった沖積地 |
| 0m前後 | 児島湖周辺の干拓地 | 干拓の水田、排水機場、水との戦い |
山のてっぺんから海面まで、その差はおよそ一三四四メートル。この一本の物差しの上に、岡山の山も、高原も、平野も、干拓地も、順番に並んでいます。次に県内を車で走るとき、坂を上り下りするたびに「いま何メートルくらいだろう」と想像してみてください。風景の理由が、少しだけ立体的に見えてくるはずです。