ため池は、瀬戸内地方を代表する風景です。兵庫・香川・広島、そして岡山——雨の少ない瀬戸内一帯には、無数のため池が点在しています。岡山県のため池の数は全国でも有数。それは自慢ではなく、「水が足りない土地で、なんとか米をつくってきた」証なのです。
なぜ、岡山にため池が多いのか
理由は、いくつも重なっています。まず雨が少ない(晴れの国)。次に、岡山の川は短くて急——降った雨がすぐ海へ流れ、田にとどまりにくい。さらに県南の平野は海を干拓してできた新しい土地で、大量の農業用水を必要としました。「川の水だけでは足りない」。だから人びとは、谷をせき止め、くぼ地に水をため、雨の多い時期の水を、乾く時期のためにとっておく——ため池を築いたのです。
ため池の、いくつもの顔
田を潤す ― 本来の役目
いちばんの役割は農業用水。田植えの季節に水を放ち、稲を育てる。ため池は、米づくりの命綱でした。
生きものの、すみか
水鳥、トンボ、魚、水草。ため池は、里山の小さな水の生態系を支える大切な場所でもあります。
風景をつくる
山あいに光る水面、堤に咲く桜。ため池は、岡山の里の原風景の一部にもなっています。
水を、分けあう知恵
ため池だけでなく、岡山は用水路の知恵も豊かです。岡山藩の津田永忠が手がけた倉安川(くらやすがわ)のように、川から水を引いて広い田へ配る仕組みが各地につくられました。水が足りない土地では、「だれが、いつ、どれだけ水を使うか」が死活問題。水番(みずばん)を置き、順番を決め、ときには水をめぐる争いも起きました。水を分けあうルールは、この土地のいちばん切実な約束ごとだったのです。
ため池の、危うさ
ただ、ため池は「つくって終わり」ではありません。古いものは堤が傷み、大雨で決壊する危険があります。2018年の西日本豪雨では、各地でため池の決壊やあふれが起き、下流に被害が出ました。以後、危険なため池は「防災重点ため池」として点検・補強が進められています。「晴れの国」でも、雨は降る。水をためる知恵には、水を安全に管理する責任がついてくる——これも、正直に知っておきたいことです。