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Legend of Ura ・ 鬼は、どこから来たのか

桃太郎伝説の正体
― 温羅(うら)と、吉備津彦

「桃太郎」の物語は、じつは岡山の古い伝説にさかのぼるといわれます。鬼の正体は、海の向こうから吉備の地にやってきた王・温羅。これを討った皇子・吉備津彦命こそ、桃太郎の原型とされます。鬼ヶ島のモデル・鬼ノ城から、今も続く吉備津神社の鳴釜神事まで、その物語をたどります。

日本遺産ストーリー鬼=温羅/桃太郎=吉備津彦鬼ノ城・吉備津神社鳴釜神事
Why Okayama ・ 桃太郎の国

なぜ岡山が「桃太郎の国」なのか

きびだんご、桃、そして鬼退治。岡山が桃太郎と強く結びつくのは、ただの語呂合わせではありません。その根っこには、古代の吉備(きび)に伝わる「温羅(うら)伝説」があります。鬼の名は温羅、これを討った皇子は吉備津彦命。この鬼退治の物語こそ、のちの桃太郎の原型とされ、県内一帯に残る史跡群は文化庁の日本遺産「『桃太郎伝説』の生まれたまち おかやま」(ストーリー#064)に認定されています。

物語の舞台は、鬼ノ城のそびえる総社の丘陵から、吉備津神社の建つ吉備の中山の麓まで。地図の上に、伝説がそのまま残っているのが岡山の面白さです。

Ura ・ 鬼の正体

温羅とは何者だったのか

鬼ノ城PHOTO ・ 鬼ノ城

温羅は、海の向こうから吉備にやってきた渡来の王と伝えられます。出自には出雲・九州・朝鮮半島南部などの諸説があり、なかには「百済の王子」とする記録も。巨体で怪力無双、空を飛び、大酒飲みだった――そんな逸話とともに語られてきました。

その居城とされるのが、標高約400mの鬼城山にいまも残る古代山城・鬼ノ城(きのじょう)。版築(はんちく)でつき固めた土塁は高さ約6m、城壁の総延長はおよそ2.8kmにおよびます。実際にこれは7世紀ごろに築かれた本格的な古代山城で、伝説の「鬼の城」の姿と重なります。

温羅は、ただ恐れられただけの存在ではありません。製鉄など進んだ技術を吉備にもたらした渡来集団の記憶が、「鬼」の姿を借りて語り継がれた――そう読む見方もあります。鬼にも、鬼になった理由がある。それが温羅伝説の奥行きです。
The Battle ・ 皇子と鬼の戦い

吉備津彦命と、温羅の戦い

朝廷から遣わされた吉備津彦命は、吉備の中山に陣を敷き、温羅と対峙します。矢を射れば温羅は石を投げて撃ち落とし、勝負はなかなかつきません。伝説は、いくつもの名場面を地名として今に残しています。

其の一

矢と石が、喰い合う

吉備津彦命が二本の矢を同時に射たところ、一本は温羅の投げた石と当たって落ち、もう一本がついに温羅の左目を射抜きました。両者の矢(石)が喰い合ったとされる地には、矢喰宮(やぐいのみや)が残ります。

其の二

血が、川になる

射抜かれた温羅の左目からは、血がほとばしって川となって流れたと伝わります。これが今も総社に流れる血吸川(ちすいがわ)の名の由来とされています。

其の三

化けて、逃げて、追う

温羅は雉(きじ)に、さらに鯉に姿を変えて逃げます。吉備津彦命も鷹に、そして鵜(う)に変じて追い、ついに鯉となった温羅を捕らえた――変身合戦として語られる、伝説の山場です。

其の四

楯を築き、身を守る

戦いに際して吉備津彦命が楯を築いたと伝わるのが楯築(たてつき)遺跡。じつはこれは弥生時代の巨大な墳丘墓で、立ち並ぶ巨石が今も見る者を圧倒します。

Naru-Kama ・ 鳴り続ける釜

首は、唸り続けた ― 鳴釜神事

物語は、鬼退治で終わりません。討たれた温羅の首は、串に刺されてもなお目を見開き、うなり声を上げ続けたと伝わります。犬に食わせて髑髏(どくろ)にしても、地中深くに埋めても、その声はやまなかった――。

やがて温羅は夢に現れ、「わが妻・阿曽媛(あそひめ)に釜殿の神饌(しんせん)を炊かせよ」と告げます。そのとおりにすると、ようやく唸りは鎮まり、温羅は吉凶を占う存在へと変わりました。これが、吉備津神社に今も伝わる神事「鳴釜神事(なるかましんじ)」の起こりとされます。釜で湯を沸かし、その鳴る音の高低・長短で願いごとの吉凶を占う――鬼が神になった、その証(あかし)のような神事です。

鬼が、占いの神になる。 敵として討たれた温羅が、最後には人々の願いを聴く存在になる。この「和解」の物語こそ、温羅伝説がただの勧善懲悪では終わらない理由です。
Visit ・ 伝説を歩く

伝説をたどる ― 岡山の史跡

温羅伝説の舞台は、総社市から岡山市西部の吉備路一帯に点在します。地図を片手に、物語の順にめぐるのがおすすめです。

史跡役割所在くわしく
鬼ノ城(鬼城山)温羅の居城/鬼ヶ島総社市鬼ノ城のページ →
吉備津神社吉備津彦命を祀る・鳴釜神事岡山市北区吉備津神社のページ →
吉備津彦神社吉備津彦命を祀る古社岡山市北区一宮吉備津彦神社のページ →
矢喰宮矢と石が喰い合った地岡山市北区高塚伝説の合戦の中心地。
血吸川温羅の血が流れた川総社市〜岡山市川名にそのまま伝説が残る。
楯築遺跡吉備津彦命が築いた楯倉敷市弥生の巨大墳丘墓と巨石群。

※温羅伝説は神話・伝承であり、細部には諸説があります。史跡の見学可否・アクセスは各自治体や神社の公式案内でご確認ください。古代吉備と大和王権のせめぎ合いの記憶が物語に投影された、という見方もあります。

きびだんご片手に鬼退治――の背景には、こんなに深い物語がありました。桃太郎の“ふるさと”を、ぜひ現地の空気とともに。吉備路 をめぐる一日にどうぞ。
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